三十三銀行
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地域活性化PROJECT

前例がないことを恐れない、
諦めなければ道は開ける。

所属は取材当時の情報です。

大切な人々が暮らす、大切な街を守るため、
新しい形の地域活性化事業に挑む男たちの物語をお届けします。
地方銀行の使命とは、そして三十三銀行のビジネスマインドとは。
これからの時代を生きるバンカーが、大切にすべきものが見えてくるはずです。

  • 寳門 拓哉の画像

    鵜方支店
    主任

    寳門 拓哉

  • 髙山 秀人の画像

    営業推進部
    法人推進課

    髙山 秀人

  • 川野 晃太氏の画像

    うみらぼ(株)
    代表取締役

    川野 晃太氏

Interview 01 地元産業の危機に一人の男が立ち上がった

うみらぼ株式会社(※)代表の川野氏は、三重県志摩市で真珠養殖を営む家に育ちました。しかしグローバル競争の激化、海洋環境の悪化、生産者の高齢化などを受け、最盛期に世界シェア90%を誇った日本の真珠産業は衰退の一途を辿ります。その荒波は川野氏の実家をも飲み込み、10年ほど前に廃業を余儀なくされました。

「我が家だけではありません。志摩市では近年300軒にのぼる真珠養殖業者が廃業し、あたり一帯は廃屋や瓦礫の山が目立つようになりました。かつての活気に満ちた時代を知る者にとっては、信じがたい光景です。地元産業の再生を図り、私を育ててくれた人たちに恩返しがしたい。その一心で今回のプロジェクトを立ち上げました。」(川野氏)

目指すのは、若者たちが集う新しい交流拠点をつくること。多種多様な知見を集約し、研究・実験・分析を繰り返しながら、地域活性化につながるさまざまな事業やサービスを提供していく。そういった変革を起こすための発信地として、まずは実家の廃真珠工場をリノベーションし、コワーキングスペースやキャンプ場などを設置する計画を立てました。

「問題は資金の調達方法でした。クラウドファウンディングをはじめましたが、総事業費4,000万円にはとても届きません。地方自治体として支援できないかと志摩市役所に相談した際、紹介していただいたのが三十三銀行さんだったのです。」(川野氏)

※うみらぼ株式会社 https://umilabo.co.jp/
若者が志摩に戻ってくるための新しいビジネス展開や教育の機会を生み出す場を創りたいという想いから、
2022年7月に実家の真珠養殖工場の跡地を再活用し、川野氏が設立。

Interview 02 相談を受けるも、前代未聞の事業に戸惑う

2015年入行の寳門は現在、志摩市内にある鵜方支店で取引先課として営業に従事しています。2022年の夏、市役所から届いた「うみらぼ」の事業計画書を見たときの印象は「これは一体なんだ?」というものでした。

「地方自治体と連携する形での創業支援は日頃から行っていますが、そのほとんどは飲食店や美容院といったなじみのある事業形態です。しかし川野さんが立ち上げを目指すソーシャルイノベーションラボ(※)という事業はまったくの初耳。どのような商流で収益をあげるビジネスモデルなのか、はじめは理解できませんでした。」(寳門)

まだ普及が進んでいない新しい事業の価値を、どのように伝えれば正しく評価してもらえるのか。その方法が分からないまま手探りで作成された計画書でした。

「私の頭の中には具体的な構想がありましたが、起業そのものが初めてだったこともあり、万人に伝わる内容に落とし込めていなかった部分は確かにあったと思います。」(川野氏)

当時、川野氏は複数の金融機関に融資の打診をしており、前例のない事業に渋い顔をする銀行もあったと言います。しかし、三十三銀行は違いました。

「当行は当初から前向きでした。詳細は分からずとも、地域活性化につながる新しいアイデアを常に求めている銀行ですから。ただ、当時の私にはこの案件を融資につなげる自信がありませんでした。そこで本部の髙山さんに相談を持ちかけたのです。」(寳門)

※ソーシャルイノベーションラボ
民間企業の中には、新サービスの創出や既存事業の変革を生み出すための「イノベーションラボ」という組織をもつ企業があるが、ソーシャルイノベーションラボは、その活動範囲を社会課題の解決にまで広げたものを指す。

Interview 03 同郷の3人が本気で「恩返し」に挑む

本部で支店の営業サポートを行う髙山。バンカー歴25年を超えるベテランですが、このような事業を扱うのは彼にとっても初めての経験でした。

「私の第一印象も寳門と同じでした。そこで詳しい事業内容をご本人に会って確認してみようという話になったんです。」(髙山)

2022年10月、運命の初回面談。この場で寳門と髙山が抱えていたモヤモヤはすっかり晴れます。

「聞けば聞くほどよく練られた計画であることが分かり、融資は十分可能だと判断しました。それより何より川野さんの熱意に惹かれました。彼のような起業家を支援できなくて、何のための地方銀行でしょうか。」(髙山)

「川野さんは私と同じ志摩市出身、髙山さんも近隣の明和町出身です。3人とも『地元に恩返ししたい』という想いは同じ。今までになかった方法で、地域に眠る可能性を掘り起こす。そんな川野さんのビジョンを知るにつれて、我々もどうにかして支援したいという気持ちになっていきました。」(寳門)

「てっきり売上計画の数字を厳しくチェックされるものと思い込んでいましたから『銀行ってこんなに気持ちの部分を汲み取ってくれるんだ』とびっくり。心強い援軍ができたと感じました。」(川野氏)

その後何度も面談を重ね、事業計画の妥当性を確認した2名のバンカーは融資に向けて動き出します。

Interview 04 「自分が一番詳しいはずなのに!」営業担当者が感じたもどかしさ

もちろん、熱意だけで数千万円の融資が実行できるほど簡単な話ではありません。

「我々は協調融資の可能性について検討しました。複数の金融機関がリスクを分け合うことで、こうした前例のない事業への融資が実現しやすくなるのではと考えたからです。特に我々が声をかけた日本政策金融公庫(政策公庫)は、創業者への積極的な融資で知られていましたしね。」(髙山)

ただ、どのような形で融資を受けるにしても、事業計画のブラッシュアップは必要不可欠です。

「我々はヒアリングの過程で顧客と事業計画をじっくりと詰めていくのですが、これは事業を軌道に乗せるために必要不可欠なプロセスでもあります。たくさんのビジネスモデルを見てきたプロの視点から、より実情に即したプランに調整していくことも我々の仕事なのです。」(寳門)

新規事業への融資を決める際、頼りになるのは事業計画書です。だからこそ自行内はもちろん、他の金融機関、信用保証協会といった協調融資に関わる人たちすべてが「これなら大丈夫」という内容に仕上げなくてはならないのです。

「融資に向けて各機関が動く中、社内外からうみらぼの事業に関する問い合わせがひっきりなしに届きます。さまざまな角度からの質問すべてに答えることは困難で、当時の私はその都度川野さんに確認を取りました。『自分が担当なのにわからないことだらけじゃないか』ともどかしく感じましたし、私個人としては最も苦労した部分でもあります。」(寳門)

Interview 05 前例がないのなら、経験と熱意で補えばいい

今回のような参考事例がないケースにおいて、どのように融資の妥当性を判断しているのでしょうか。

「計画にストレスをかけるんです。例えば予定の80%しか売上が出なくても事業は回るのか、70%ではどうか、60%ではと試算を重ねて確実性を高めていく。その中で改善すべきポイントが見えてきたときは、一部計画の変更や、細部の微調整を川野さんと検討していく。この繰り返しです。」(髙山)

順調に進んでいるように見えた協調融資でしたが、ある日寝耳に水の出来事が起きました。

「協調予定だった他行が突如、融資の見送りを発表したんです。我々は急遽、信用保証協会や政策公庫との再調整に乗り出しました。当初の計画から変更は加えられましたが、初動が早かったこともあり大きなトラブルには発展しませんでした。地元の信用保証協会とのつながりが強い当行だからこそ乗り越えることができたんだと思います。正直ホッとしました。」(髙山)

関係者全員が手探りで進めた協調融資。融資申し込み以降の半年間、川野氏のスマートフォンは鳴り止まなかったそうです。

「驚くべきは三十三銀行さんのレスポンスの速さ。私がチャットツールでメッセージを送った次の瞬間、返答が帰ってくるんです。このスピード感は、もう一つの勤め先であるITベンチャーよりも速いのではないかと思えたほどです(笑)。」(川野氏)

Interview 06 新たな再生モデルに育て、地域の未来を明るく照らす

そして2023年3月、数千万円規模の協調融資が決定。川野氏が思い描く夢の実現に、大きな一歩となりました。

「融資が決まったことはもちろん嬉しかったのですが、それよりも寳門さんが嬉しそうだったことが嬉しかったというか・・・。お二人が苦労して事業計画を引っ張り上げてくれたことを知っていますので。私一人の力では到底実現できなかったと思います。」(川野氏)

その後、川野氏の活動はさまざまなメディアに取り上げられ注目を集めました。特筆すべきは、今回の協調融資そのものが高い評価を受けたことです。

「政策公庫と組んだ協調融資スキームが地元の新聞に取り上げられたんです。その他にもビジネスプランコンテストを受賞するなど、地域活性化を後押しする支援策として評価されたことは、いちバンカーとして誇らしく感じています。」(髙山)

しかし、今回の融資決定はあくまでスタート地点。この資金でどのような価値を生み出し、地域の再生・発展につなげていくのか。本番はこれからです。

「プロジェクトに関わる中で、他エリアの方を英虞湾に招くことも多くありました。すると、みなさんこの景色の美しさに感動してくださるんですね。私にとっては当たり前の故郷の風景が、実はものすごいポテンシャルを秘めている。そのことを再確認できました。今回のプロジェクトをまずは成功させ、同じ課題に悩む他地域にも展開していきたいですね。」(寳門)